ゴキブリ・ハエなどの害虫が発生した場合に大家がすべき対策

賃貸物件の大家さんから、ゴキブリなどの害虫が発生した場合の大家さんの法的な責任ついてのお問い合わせが続いています。

入居者からゴキブリが発生しているので退去したい、退去に際して引っ越し代を負担して欲しいと言われて、お困りの大家さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

また、駆除業者に頼んだのに完全に駆除しきれず、入居者からクレームが来ている大家さんもいるのではないでしょうか。

結論から言いますと、大家さんは、専門業者に頼んで害虫駆除を行い、さらには駆除業者のアドバイスに従って発生原因を調査していれば、完全に駆除することはできなくても、責任を問われることはないでしょう。

詳しく知りたい方向けの解説

少し詳しく知って安心しておきたい大家さん向けに解説します。

賃貸人は、賃借人が建物を使用収益するのに支障がないようにするため,一定の限度で害虫駆除の義務を負います。そのため、建物そのものに害虫の発生原因がある場合、建物を修繕するなどして害虫・害獣の発生を防止する必要があります。

害虫駆除義務に違反した場合は、賃貸人に債務不履行があったとして、賃貸人は契約の解除と損害賠償の責任を負うことになります。

しかし、賃貸人は害虫を完全に駆除する義務まではありません。そうでなければ不可能なことを賃貸人に強いてしまうからです。

賃貸人としては、害虫駆除の専門家である業者に依頼して駆除を行わせ,かつ,害虫駆除業者から指摘された発生原因の調査を行っていれば、害虫駆除義務を尽くしていたことになり、上述したような、賃貸人は損害賠償の責任を負いません。

東京地裁平成25年12月25日判決は、虫駆除の専門家である業者に依頼して駆除を行わせており,かつ,害虫駆除業者から指摘された配管調査も管理会社に行わせており,賃貸人として必要かつ可能な対応はしていたとして、賃貸人の債務不履行は認めませんでした。

東京地裁平成24年6月26日判決は、コバエの発生の主たる原因は建物内の汚水槽の機能や機構にあるなどと認定し、賃貸人の債務不履行を認め、損害賠償責任は認めましたが、賃貸人と賃借人の間の信頼関係が破壊されたとはいえないとして、賃貸借契約の解除は認めませんでした。

2つの判決の結論の違いは、害虫の発生原因が建物そのものであることが判明しているかどうかであると考えられます。

東京地裁平成21年1月28日判決は、ネズミが侵入していることについて、ネズミの侵入を阻止するよう措置をとる義務が賃貸人に直ちに生じるものではないし,建物に侵入したネズミの事後的駆除も,建物を占有する賃借人が行うべきであるとしています。

参考判例

東京地裁平成25年12月25日判決

「原告は,建物賃貸借契約における賃貸人であり,賃借人に対し,賃貸建物を使用収益させる義務を負うところ,本件賃貸借契約における賃借人である被告会社は,本件貸室においてネイルサロンを営業しており,その衛生管理上,チョウバエの発生が好ましくないこと(乙11)は明らかである。そうすると,原告が認めるとおり,原告は,賃借人たる被告会社が建物を使用収益するのに支障がないようにするため,一定の限度で害虫駆除の義務を負うべきものといえ,もとより完全駆除を達成できることが望ましい。しかしながら,当該義務は不可能を強いるものではないというべきである。
 原告は,害虫駆除の専門家である業者に依頼して駆除を行わせており,かつ,害虫駆除業者から指摘された配管調査も管理会社に行わせており,賃貸人として必要かつ可能な対応はしていたというべきである。そして,管理会社による調査の結果,漏水等のチョウバエ発生源をうかがわせる具体的兆候が発見されなかったという状況のもとでは,それ以上の専門業者による配管の調査等を行うべき義務があったとまではいえない。また,チョウバエ類の駆除については,発生源の特定とその除去が大切であるとされていることが認められるが(乙12,14),害虫駆除の専門家ではない原告が,専門家である駆除業者が行った駆除方法を信頼することは無理からぬことであり,可能な範囲で指摘された配管の調査もしているというべきであるから,発生源の特定と除去に至らなかったという結果をもって,対応が不十分であるということもできない。そもそも,本件におけるチョウバエ発生源が本件建物自体の瑕疵であると認めるに足りる証拠もない。よって,結果的にはチョウバエ類の完全駆除に至らなかったものの,そのことをもって,賃貸人としての債務不履行と認めることはできないというべきである。
 そうすると,被告会社による本件解約通知書による解約通知は,本件賃貸借契約の契約条項第8条(1)による解約申入れと解するのが相当である。」

東京地裁平成24年6月26日判決

「賃貸人である被告は,その賃貸目的に従った使用ができるよう本件建物を維持,管理する本件賃貸借契約上の義務がある。ところが,上記1の認定,判断のとおり,本件建物では一定期間コバエが発生し,その主たる原因も本件建物の本件汚水槽の機能や構造にあったと認められるところ,証拠(甲77,証人F)によれば,そのコバエの発生期間中,従業員が不快感を持つとともに,事務に集中できないなどの支障も生じたほか,コバエ対策のため総務担当の事務員がゴミの処理について従業員に注意を促す広報に従事するなど余分な事務が増え,さらには,外部からのコバエの侵入を防ぐ趣旨で窓を開けられないとか,外部から来た客の不快感に苦慮するなど,本件賃貸借契約の目的に沿った原告の利用が一定程度妨げられる事態が生じていたことが認められるのであるから,本件賃貸借契約上の債務に不履行があったというほかない。」

東京地裁平成21年1月28日判決

「建物の賃貸借契約において賃貸人が賃借人に対し負う義務は,賃借人がその使用目的にしたがって建物を使用収益できる状態にして引き渡せば足りるもので,その後,建物にネズミ等の生物が侵入するようになり,建物の使用に影響を与えるようになったとしても,ネズミ等の建物内への侵入自体は,当該生物と建物を使用する賃借人の使用状況との相関関係により生じる事態であって,賃貸人の管理の及ばない事項である以上,この侵入を阻止するよう措置をとる義務が賃貸人に直ちに生じるものではないし,建物に侵入したネズミの事後的駆除も,建物を占有する賃借人が行うべき事柄である。」

 

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